1-勇気を出す

 あらたまった場になると、うまくモノがいえない、という人は多いようです。なぜ、あらたまった場になるとうまくモノがいえなくなるのでしょうか。
 いろいろな理由があるでしょうが、私は”自意識”ということが一つの大きな理由としてあげられるのではないかとと思います。

会話 たとえば、偉い人などの前に出ると、私達はややもすればあがります。身近で気のおけない人とか仲間の前でなら遠慮なく喋れることが、偉い人の前ではうまく喋れない。なにしろ、相手は自分よりも偉い人です。
 ”こんなことをいうと笑われないだろうか”とか”妙なことをいって、悪印象を与えたくない”とか、そんな気持ちが働いて緊張するわけです。これは、何も偉い人だけに限らず、初対面の人の場合なんかも同様です。やはり”みっともないことはできない”と思った瞬間、緊張が走ります。

 慣れない席や場に出たときなどもそうです。慣れないということは、不安感や恐怖心を伴います。”大丈夫だろうか””うまくいくだろうか”と、私達はどうしても身構えてしまいがちです。荘厳な応接間に通されたとか、立派なホテルの一室で祝賀会のスピーチをしなければならないとか、そういうめったにでくわさない場面に出ると、それだけで緊張してしまいます。とりわけそこに冠婚葬祭の儀礼やマナー、あるいは敬語ひとつにしても、不慣れな問題が加わると、緊張感はそれだけ高まります。粗相をして恥をかきたくない、そんな思いに強く駆られるのです。

 誰でも、自分は可愛いものです。人からよくみてもらいたい、りっぱだと誉めてもらいたい。これが人情です。緊張するというのも、もとはといえば、そうした未知の場面、不慣れな局面でうまく適応していこうという自己防衛本能が働くからです。人前での話が苦手だという人は、この緊張感がやたら強い人ではないかと思います。いや、普通の人でも、できるだけ緊張する場面からは離れて、呑気にしていたい、楽にしていたいと思うものです。しかし、一人前の社会人、ビジネスマンともなればそれではすまないことは、既に「はじめに」のところでも述べたとおりです。では、どうすればいいのでしょうか。

幽霊幽霊の 正体見たり 枯尾花

 こんな川柳をご存じのことでしょう。恐い恐いと思っていると、枯尾花でさえも幽霊に見えておどろかされてしまうーあえて注釈するまでもない平易な句ですが、でも、よくよく考えてみると、この句は私達に人生を生きる秘訣のようなものを教えてくれていると思うのです。幽霊といえば、まず恐いものと相場が決まっています。恐いものから逃げたいというのは、人間の一般的な心理です。しかし、恐いという先入観にとらわれて逃げるばかりしていては、いつまでたってもそれは消えてなくなりません。かえって心にとりついて離れません。ところが、その恐いと思っているものを直視する勇気をもったらどうでしょう。恐い恐いと思っていたものが、実は枯尾花にすぎなかったということもわかるのです。

ボクサー 輪島功一氏といえば、比較的遅い年齢からボクシングをやり始めたにもかかわらず、その精進が実って世界ジュニアミドル級チャンピオンの座に登りつめた人です。とくにそのトリッキーでクレバーなボクシング・スタイルは多くのファンを魅了したものですが、この人があるとき、人生で一番大切なものは何かと問われて、それは”勇気”であると答えていたのが印象的でした。けだし、名言です。逃げていては、いつまでたっても、成長はありません。困難な事態に直面したとき、岐路に遭遇したとき、あえて安易な道を選ばず、自己にチャレンジしてみる。その勇気をもつことが実に大切なことだと思うのです。人前で話すということについてもまったく同様です。思い切ってやってみれば、案外思ったほど恐いものでもないことが多いのです。

出典:追田保著「人前でうまく話せる本 これであなたの話し方は見違えるようになる」P14~P16

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